中村 中

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切なさ/激しさの同居した生命力あふれるリリック、そして心を震わせるサウンドを世に放つアーティスト・中村 中が、6月2日、現代社会における“自立心”を描いたニュー・シングル「家出少女」をリリース!


 作品としては、サード・アルバム『あしたは晴れますように』から約1年半ぶりのリリースとなりますが、ご自身の中で音楽に対する向き合い方など、変化したところはありますか?

中村 中:自分の思っていることと詞に書いたものが直線で結ばれているような、言葉をより素直に、より具体的に書けるようになりました。今まではちょっと屈折していたり、もう少しひん曲がったりしていたと思うんですね。たとえば、デビュー前のものって、自分で今聴いても恥ずかしかったり、“人に聴いてもらうための音楽だったのかな”って思ったり。この「家出少女」自体は、そういったことをあまり意識せずに、再スタートのつもりでつくっているんですけど、ちゃんと人に聴いてもらえる楽曲になったと思うし、伝わらないわけがないという自信もあるんです。だから、そのあたりがちがいますね。

 そのニュー・シングル「家出少女」ですが、作品のインスピレーションはどんなところから浮かんできたんですか?

中村 中:母からある日「何時に帰ってくるの?」と尋ねられた時、「何時に帰る」って答えられなかったんです。ニュースを見ていると、少年や少女たちが危険な目にあってしまったりとか、今朝は元気に出かけていったのに夜には帰らぬ人になってしまったりとか、そういうものを見ていると、 “私が今日出かけていって、無事に帰ってこれる保証なんてないんじゃないのかな”って思ってしまって。そのことが引っかかっていて、自分の身は自分で守らなければいけない時代なんだなって思ってこれを書いたんです。少女っていうのは本来、誰かに守ってもらって生きているけれど、今いる場所がもし危険な場所だとしたら、自ら出て行かなければいけなかったりとか、自分の人生ならば自分の心くらいは信じて、自分で選んだ道を進んでいかなければいけなかったりとか、そういうことを歌いたくて。だから、自立心の歌だと思っています。

 世間的に、“家出”という言葉にはネガティヴなイメージがあるかと思いますが、このタイトルにはどんな思いが込められていますか?

中村 中:確かに家出って言うと、「家に何か問題があって出てゆく」というイメージがありますよね。でもそうではなくて、逃げるというよりはむしろ挑む“旅立ち”のイメージです。私は家出に対してマイナスなイメージがなくて。私の価値観かもしれないですけど、上京も家出だと思うんです。何もかも人に頼っていては今を生きてくことができないような気がするし。100%人に寄りかかってしまうのではなくて、自分でやってみようよっていう提案なのかな。今がものすごくハッピーな時代だったら、こんな曲は出てこなかったと思うんです。タイトルももっとポジティヴなものになっていたのかもしれないし。たとえば、「旅立ち」とか「上京物語」とかね。でも、ひたむきに生きていこうとする人に吹き付けてくる向かい風が強い時代だからこそ、タイトルにもちょっと影が出てしまったんじゃないかな。

 切なさ、激しさ、そして力強さを感じるギター・サウンドが特徴的ですが、こういったサウンド・イメージにしようと思った理由は?

中村 中:今までピアノをメインの楽器にして曲を構成していくことが多かったんです。ピアノってすごく行儀のよい、ピアノの中で音程がすでにできあがっている楽器なんですね。でも、歌ってそういうものがないでしょ? 声の不安定さを曲に活かしたいと思ったから、不安定なものをメインの楽器にしたくて。ギターなら人間の手クセで、弱く押さえると音が低くなったり、ギュッと押さえると高くなったり、同じドの音でもちがいますよね。そのくらい人間のやりようで変化するんです。もっと静かなバラードだったらまたちがった形になっていたと思うんですけれど、この曲はすごく直線的で、心の底から歌っているような感じがするんですね。のどの奥から大蛇がウワーッと出てくるようなイメージで叫んでいるとういか。そうなったときに、きれいなものに伴奏してもらうのでは、お互いを邪魔することになるから。それで不安定であるギター・サウンドにしようと思ったんです。

 この曲自体をリスナーにどう楽しんでほしいですか?

中村 中:自由に、と思います。私はわざわざこの人にはこれ、この人にはこれ、というふうにしたくなくて。自由に読み解いてもらいたいし、まちがったことを歌っているつもりはないから、身をゆだねて聴いてもらって、勢いに巻き込まれてもらえれば悪い気はしないはずです。そんな気持ちです。

 カップリングの「帰れる場所なんて、ない」は、ストーリーこそちがうものの“目的を持って突き進む”という点では「家出少女」と通じるものを感じましたが、そのあたりは意識したんですか?

中村 中:まったく意識はしていなくて、これは洒落で入れました。話すとデビューの頃にさかのぼるんですけど、私はデビュー曲が「汚れた下着」という曲で、“デビューをするのにこんなタイトルで大丈夫かしら?”って思ったんです。私のイメージでは、華やかでずっと歌い続けられるようなものがデビュー曲になるべきなんじゃないかなと思っていたから。真剣に歌を歌っているつもりだったから、「汚れた下着」でデビューするとなると、“下着が汚れている人と思われるぞ”と思ったり(笑)、飛び道具というかフェイクでデビューしちゃうような気持ちだったんです。今となってはね、こういう風に語れる語りぐさをいただいたと思って感謝しているんですけど、当時はやっぱり心もとなかった。“デビューする!”という決意がまったく入ってない曲なんです。だから、その決意表明をカップリングに書いてしまおうと思って。以前、「風の街を捨てて」という曲で、“私はこれから出ていって、もう振り返れない遠い街で大人になるんだ”、みたいな歌を書いたんです。それと同じ手法でやろうと思ったんです。“「家出少女」は、再スタートだと思っている”って先ほど言いましたけど、それならばカップリングにはデビューのときと同じように、スタートを切るときの心意気を入れておこうと思って。ちょっと古い曲なので、少し手を加えたんですけどね。わかりやすく言うと、“新しい大事なものを追いかけるときに、今まで持っていた大事なものなんて、簡単に置いていけるのよ”っていう歌です。

 曲自体は古いとおっしゃいましたが、そのときはどういう気持ちで書かれたんですか?

中村 中:やっぱり遊びの感覚は大きかったと思いますよ。基本的に10代のころから、“来るものは拒まず去るものは追わず”というか、そのときそのときに大事なものをちゃんと見つけて、その人に最大限尽くせたらそのまま会えなくなっても平気なタイプなんですね。そういう生き方をしているから、帰るとか戻るとか、振り返るという感覚がないんですよ。なので、この「帰れる場所なんて、ない」というタイトルを書けたんだと思います。タイトルはこのままでしたから。女の人の強さみたいな、最終的に心も身体も手放してしまったって全然平気なのよっていう。

 曲調は、中村さんらしい感じがすごく出ていますね。

中村 中:デビューのときからCDを買っていただいている方にも、「あっ、やっぱり昭和歌謡の匂いがする人なんだな」ってわかりやすくしておきたかったし、はじめて聴いた方にも、私の匂いがちゃんと感じられるようにしておきたいなと思ったから。今までつくっているものでも、今つくっているアルバムでも、ライヴのタイトルひとつでも、細かいところに仕事が効いてるみたいなのが好きなんですね。そんな感覚。

 収録曲のサウンド・プロデュースには、「ちぎれ雲」、「台風警報」を手がけた根岸孝旨さんを迎えていますが、制作の進行はいかがでしたか?

中村 中:やっぱり2回目だったので、実作業はすごくスムーズでした。自分の身の丈に合った音楽じゃないと、足元をすくわれて大怪我をすると思うんですよ。そういったことがないように、地に足を付けて活動しようみたいな考えにのってもらった感じですね。それが今回、弦のアレンジをやったことにもつながっていて。この曲にはパワーがあるから、もっとパワーを出すために弦を入れたいということになったんです。ただ、予算的には厳しい部分もあり。それで、弦を弾く人に相談したら、自分でアレンジをすればコストを抑えられるというアドバイスをいただいて。弦のアレンジなんかやったことないけれど、やったことがあるかないかということよりも、良い音楽をつくりたいという情熱が先にあったから、やろうと。さっき自立心の歌だって言いましたけど、コツコツ自分の手でつくっていく様がまさにそんな感じで、見えない自信になっています。

 そういった経験がこれからの活動にも活かされていくわけですね。

中村 中:弦の音はミックス作業で下げられて、聴こえなくなっちゃってる音がいっぱいあるんですよ。ただ、聴こえないんだけど、私がこうして取材でしゃべったりとか、ライヴで歌ったりしているときに、その見えなかったものはちゃんと後押ししてくれている。微生物にみたいなものが、こうビューっと私を押している感覚なんです。

 ジャケットのインパクトも強いですが、どのようなコンセプトでつくられたのですか?

中村 中:心機一転ということもあって、少年にも少女にも見えるようなスタイルにしたいという思いがあって。髪が長いと、どうしても憂いとか艶みたいなものが出てきてしまうんだけど、それをなくしたかったっていうのもあると思いますね。あと、女の子同士ってケンカするときにね、髪を結ぶの。引っ張られたら負けちゃうでしょ。だから、今出て行かなきゃいけないんだっていう、いざっていうときの少女っていう感じがします。弱味みたいなものを捨てて、スッと立っている感じ。あと、ポイントは目の下のクマがちゃんと写っているところ。私はクマがちなんですけど、よくぞここまでちゃんと写してくれたって思う。何かこう、朝までずっとさまよい歩いたところをパシャッと撮られてしまった感じが出ていて良いと思ってます。実は、『天までとどけ』っていうファースト・アルバムも海辺で撮ってるんですよ。空に手を上げている写真を九十九里で撮影して、また今回も九十九里なんです。もちろん意味があって、私的には原点回帰というか、再スタートの作品なので、スタートのときと同じことをしたいと思っていました。

 今後の予定は?

中村 中:去年からやっているライヴのその2というか、『アコースティックツアー 阿漕な旅 2010』というのをやります。もともと行ったことのない街に行けるようなライヴにしようと企画したライヴで、わざと都心、大都市を避けているんですけど、今年は西東京も含めて15ヵ所に増えています。それをやりながら、秋頃に出そうと思っているアルバムのレコーディングをしていて、とにかく今はそれに集中したいですね。それ以上先のことというのは、考えていないです。

 最後にファンの方へのメッセージをお願いします。

中村 中:今の時代を“荒波”とたとえるならば、「家出少女」には荒波を泳いでいくためのパワー、泳ぎ方の提案みたいなものを込めています。私は今ものすごい勢いでもがいているように見えるかもしれないけれど、前進しようとしているので、その勢いに身をあずけていただきたいなと思っています。あとはこのシングルには、アルバムに通ずるある仕掛けをしてあるんですよ。これは配信で買ってもわからないし、試聴しても全然わからないようなおもしろい仕掛けなので、ぜひCDをお手に取っていただければと思っています。


INTERVIEW:Hiroyasu Wakana


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●SINGLE
06.02 On Sale
「家出少女」
中村 中
YCCW-30025

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