狩野泰一
日本古来の“篠笛”の可能性を広げるため、コンサートやワークショップなど、さまざまな活動を行なっている篠笛奏者・狩野泰一(かのう・やすかず)。3月24日、約3年半ぶりとなるオリジナル・アルバム『しあわせに』をリリース!
狩野泰一:姉がピアノを習っていたので、小学校1年生くらいから私もピアノをはじめたんです。その後、姉が中学校に進んだ時に吹奏楽部に入って楽しそうにしていたのを見て、私も小学校6年生からランドセルのまま、姉の中学校の部活に通って、トランペットを習いはじめたんです(笑)。だから、音楽をはじめたきっかけとしては、姉の影響がすごく大きいですね。その後、ピアノにもトランペットにも行き詰まっていた時にビートルズを聴いて、全身を使ってビートを叩き出し、それに乗っていくドラムの肉体的な感覚にひかれ、13歳からドラムをはじめたんです。
狩野泰一:はじめは趣味だったんですが、ライヴハウスでプロ指向の学生やプロの方々と出会う機会が増えていって。そういう人たちを目の当たりにして、自分も自分のやりたい音楽を徹底的に突き詰めて、全身全霊で向かっていかないと気が済まなくなっていったんです。それで’87年に鼓童に入座しました。
狩野泰一:研修生の時は、佐渡でストーブが食堂にひとつだけしかないような廃校に住んでいて。毎朝4時50分に起床、吹雪でも10キロのランニング、石段を駆け上がった直後に笛を吹き、1日中太鼓を叩きながら、強烈な先輩方にもまれて、なんとかメンバーになれました。その後、日本中、世界中の大劇場に立つようになってからは、つたない笛のソロに、連日容赦のない観客の罵声とアンケートの酷評を浴び続けました。でも、どの場所でも、コンサートの最後には満員のスタンディング・オベーションをいただいて。とにかく肉体的、精神的に鍛えられましたね。
狩野泰一:鼓童時代を含め、今まで世界の約50カ国でさまざまな素晴らしい音楽や人々と出会ってきました。まだまだ未知の宝が山ほどあるんですが、残念なことに、中には弾圧されていたり、封印されてしまっているもの、絶滅していくものもたくさんあるんです。音楽は言葉、宗教、信条、国境を越えて感じあえることが素晴らしく、知らなかった音色、表現、方法論に出会うたびに大きな驚きと感動が心の底からわき上がってきて、それと同時に、その音楽、文化、人を世界に紹介したい、一緒に新しい文化を産み出したいという気持ちに駆られます。
狩野泰一:そうです。23歳の頃からですね。私の通っていた小学校では、5年生になるとリコーダーではなく、プラスチックの横笛を吹いていたんです。だからすぐに音は出せて。鼓童に入座してから、いろいろな楽器をやってみて「和太鼓より篠笛の方が向いている」と言われたし、自分でもそう感じていたんです。みんなとの太鼓の稽古が終わって、ひとりで海に向かって笛を吹くのがだんだんと気持ちよくなっていって、動の中の静、集団の中の個というものを意識するようになりました。
狩野泰一:毎朝、森の中を走っているんですが、ある冬の朝、ひざが痛くなってしまって、ゆっくりと歩いたんです。すると希少な雪割草が、ひっそりと咲いているのを見つけたんです。15年間、毎日走っている道なのに、それまでまったく気づかなくて。誰にほめられるでもなく、毎年寒い冬に耐え、凛と咲いている雪割草を見た時に、“私も咲かなきゃ!”と、本当に元気づけられました。身近な森に、無数の命がドラマを繰り広げている。そんな当たり前のことに気づいて感動したことが、“森”をテーマにするきっかけになりました。空を泳ぐ雲や庭の竹やぶの雀など、身の回りの自然に感動して書いた曲を集めて。人は、自分から遠いものに憧れてしまいがちですが、“大切なものは身の回り、自分の中にある”というメッセージを込めています。
狩野泰一:風の音、鳥の声、海鳴り、虫の音などを聞き、魚たちと泳ぎ、海に沈む夕日に包まれて波に乗り、山から昇る月に感動しながら暮らしていますが、それらのすべてに音楽的なヒント、エッセンスがあるんです。自然の持つヴァイブレーションの何が人を心地よくさせてくれるのか? それは人がつくった音楽から影響を受けるのとまったく次元のちがう、気づきのような気がしています。
狩野泰一:通常、篠笛1本で吹きながら、イメージする音色、気持ちのいいメロディの流れを探って作曲していくんです。今作で言うと「雪割草」なら澄んだ高音の“六本調子(篠笛のひとつ)”を持ち、「India」なら“バンスリ(インドやネパールの竹笛)”のようなかすれた低音がほしかったので、もともと篠笛にはなかった特注の太い、低音の出せる“0本調子”を笛師の蘭情さんにつくってもらいました。その笛を吹きながら、メロディ・ライン、節回しをつくって、そこに加えたい音、楽器編成をイメージしながら一緒に演奏した時のバランス、全体のサウンドを考えていきます。
狩野泰一:たくさんあるんですが、まずは篠笛の息づかい感を活かすように、音と音の間合い、空間をとることですね。それと重要なのが、必要な音しか奏でない、必要以上の音を重ねないことです。あとはシンプルないいメロディに、絶妙なコード付けをするよう心掛けていて。ただ、コード付けは共演者の方にお任せするので、同じ曲でも、共演する方が変わることで、コードも変わることがあります。
狩野泰一:リズムは、いつも自分の本能に任せているので、ルーズになることもあれば、タイトになることもあるし、引っ張ったり、オンで吹いたり、レイドバックすることもあります。とにかく無心に、感じるまま、なすがままに吹くように心掛けています。“うたう”ことと、“うねる”ことは、“命”だと思っています。
狩野泰一:そうですね。嫌なことがあっても、疲れていても、落ち込んでいても、このアルバムを聴いたら“しあわせに”なれる…そんな風にお役に立てれば、作者として、それ以上の喜びはありませんが、とにかく自由に感じて、楽しんでいただければと思います。日本中の民族音楽を産んできた篠笛で、今までにない、自然で心地よい風のような音世界をつくり続けています。ぜひ、静かなところで聴いてみてください。そして、コンサートを聴きに来ていただければと思います。私の音の中に宿る自然が、みなさまの心の自然と共鳴すると思います。ライヴ情報や報告などは、ブログにアップしているので、チェックしてみてください。みなさまにお会いできることを楽しみにしています。
INTERVIEW:Shinji Takemura
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