Boris
活動当初からワールドワイドなスタンスを志し、今や世界的にその名を轟かせるBorisが、長きに渡る活動の中で初のメジャー作品『New Album』を3月16日にリリース! プロデューサーに成田忍を迎え、タイトル通り、Borisの新しい世界観を提示する作品!!
まず、東北地方太平洋沖地震の犠牲者の方々には謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災者の方々には、心よりお見舞いを申し上げます。
Boris 一同
(編:以下取材は震災以前に行なったものです)
Atsuo:ん〜…たまたま? 僕らとしては、日本のインディーや海外のレーベルでリリースしてきて、ひとりでも多くの人に聴いてほしいと常々思っていたし、いろんな人の手元に届けばいいと思っているので、そこにうまくハマった感じというか。長く活動しているからと言って、“メジャーで出そう!”と思っても簡単に出せるものでもないし、本当にタイミングってものがあると思うので…。それが今回はエイベックスの担当ディレクターに興味を持っていただいて、うまく話がまとまったという感じですね。
Atsuo:これがちょっと複雑でして…。’08年に『SMILE』のツアーをヨーロッパ、アメリカ、日本で100本くらいやったんですけど、その合間にレコーディングも続けていて、ツアーがひと段落した’09年5月にアルバムが1枚できてました。そのアルバムが実は“New Album”というタイトルだったんですけど、そのアルバムの最初のコンセプトが“お蔵入りにするアルバムをつくろう”というもので…。とにかくBorisっていう名前にしばられることなく、好きにやりたいっていう感じでつくったんです。それが、ここ3、4年で音楽を取り巻く状況っていうのが急激に悪化してきていて、リリースする意義も見いだせず、結果、本当にリリースを断念しました。今後どうしていこうかな? って時に、そのアルバムから2つの方向性が見えてきて、4月にアメリカのレーベルからリリースする『Attention Please』と『Heavy Rocks』という2枚のアルバムが生まれました。その作業やリリース・プランを進めていく中で、日本でのリリースをどういう形にするかということも考えて…。最終的に、その2枚のアルバムから曲をピックアップしつつ、新曲も加えて、“日本盤仕様”みたいな位置づけの作品をつくることになったんです。
Atsuo:そうです。そのアルバムの存在がずっと頭にあったし、今回、成田忍さんにプロデュースをお願いして制作したんですが、“一番新しい形のBoris”ができたという実感もあって、このタイトルにしました。成田さんにお願いしたのは、僕自身が成田さんの作品、プロデュース・ワークのファンで、Borisと共同作業ができたらすごく面白いものができるだろう、一緒にやってみたいとずっと思っていたので、今回お願いして。
Atsuo:いえ、今回がはじめてだったんですけど、知り合いのツテで紹介していただきました。成田さんの作品を聴くと、イメージ的にすごく寡黙でクールな人物像だったんですけど、こちらの意向をいろいろと汲んでくれるすごくジェントルな方で。アーティスティックな仕事からアイドルの仕事までやっていて、すごく振り幅のある方なので、話をしていてもこちらに歩調を合わせてくださって、すごくスムーズに作業が進みました。だから、今回すごく楽しかったですね。いろいろ新しい発見もあったし、勉強になった部分もあったし、作業自体も和やかなムードの中やれましたし。バンドのメンバーだけでレコーディングをやっていると、修行みたいになっていくんですよ。知った仲だから、“言わなくてもわかれよ”みたいに、段々とギスギスしていったりして(笑)。でも、成田さんに立ち会っていただいたことで、そういうこともなく。機会があれば、引き続き一緒に仕事をさせていただきたいなと思います。
Atsuo:成田さんのプロデュース・ワークの結果というか。もともと僕ら作曲というものをしないんです。スタジオでセッションしたものをレコーディングして、録った素材を組み替えたり、オーヴァーダビングしてレイヤーを重ねていって、なんとなく曲っぽくしていくというか。録れた音に耳を傾けて、どういう方向に生まれたいのかなっていうのを追っていく作業をずっとしていく感じなんです。今回は、自分たちがレコーディングした素材を成田さんにお渡しして、好き勝手やってもらって、そういうコラボの中で“新しい音をデザインしていく”っていう側面をより強くした感じですね。
Atsuo:成田さんと一緒に作業をはじめて、最初にでき上がったのが「Party Boy」だったんですけど、自分たち自身すごくドキドキした。“Borisどうなっていくの?”みたいにすごくハラハラしたんです。その感じを聴いてくれる人にも体験してもらいたくて…、「Party Boy」を1曲目にしようというのは、かなり早い段階で決まりました。あとは曲のでき上がりをみつつ、流れ的に一番いいものに収めていきました。
Atsuo:今回特に振り切った部分は、すでに一般化されてる方法ですけども、デジタル上で完結させるっていうところです。今までもデジタル・レコーディングをしているんですけど、最終的にアナログ的なテクスチャーを加えていたんです。アナログ卓を通してミックスするとか、どうしても越えられない一線があった。でも、今回、成田さんと一緒に作業させていただくにあたって、成田さんの持っているノウハウを最大限に使っていただけるっていうのもあったし、僕らの中でそういった手法が、どうアリになっていくのか? っていうのを自分たちで経験したい部分もあって。アナログがいいとか、デジタルが悪いとか、そういう時代でもないし、デジタルにできること、アナログにできること、何がアリなのかひとつひとつ確認していくしかないと思っているので、今回はかなりデジタルな方向に振り切って音像を求めていきました。
Atsuo:そうですね。今まではミキシング・エンジニアと一緒にやっていたんですけど、今回はエンジニアという概念を入れないで、プロデューサーと直でやる感じで。今までのやり方を否定してるわけじゃありません。先々、そういう部分もミックスしていけたらなと。エンジニアという価値観のあり方、プロデューサーという価値観のあり方、自分たちにとって何がアリなのかを見極めながら、そういう構造自体を自分たちでプロデュースしていけたらいいなと思っています。
Atsuo:新しく書き下ろした曲に関しては、成田さんにヴォーカル・ディレクションにも立ち会ってもらいました。僕ら本当に何も学ばず、自己流でレコーディングをして作品をつくってきているので、成田さんの方法論に新しく触れたところもあって。具体的には、ヴォーカルの発声のときに、子音を強く意識して歌うとキレの良い音が残せるとか…。自分たちの範囲でやりたいようにやっているだけだったのが、そこに新しい手法とか、視点とかが入ってきて、それが面白かったですね。共同作業は、相手の人が音楽をどうとらえているかっていう視点に触れる機会とか、意識のチャンネルを増やすチャンスなので、いつも面白いんですけど、今回もいろいろ刺激になりました。
Atsuo:先ほど話に出たアメリカのレーベルから出す2枚のアルバムのうち、『Attention Please』は、全曲Wataのヴォーカルなんです。自分たちの中でWataのヴォーカル曲、Wataっていうキャラクターの世界観を掘り下げていくっていうところからはじまっていて、それがそのまま今回の『New Album』の方にも入ってきた感じです。
Atsuo:すごく大変なんですよ、Wataのヴォーカル録音は。声が小さいですから、ルーム・ノイズの問題であるとか…、一番驚いたのはリップ・ノイズだと思っていたのが“まばたき”の音だったという(笑)。でも、小さい声だからこそ、その中に隠れている表情を追っていく作業がすごく面白くて。Wataはヴォーカリストになろうなんて一度も思ったことがないから歌い方を全然知らないんですけど、だからこそ聴いたことがないものが録れるという側面もあります。Wataの声から生まれてくる曲の雰囲気とか、新しい感覚が自分たちにつかめたり、見えてきたりするのは、作業の中ですごく新鮮だし、可能性が広がっていくのは楽しいですね。次は僕のヴォーカル・アルバムかな。いや、ナシですね(笑)。
Atsuo:普通に聴けば、すごくポップで軽い印象だと思うんですけど、僕の中では、今まで追求してきているヘヴィネス、ヘヴィな音楽の現代でのあり方というか、一番ヘヴィなアルバムができたなと思っています。逆に言うと、普段ノイズ・ミュージックを好んで聴く人にしてみれば、僕らの今作っていうのはすごくノイジィに聴こえるかもしれないし。そういう意味では、本当にいろんな方に聴いていただける幅があると思っています。今までの作品では“親戚のおばさん”的な人に渡す場合、“これ何? プレイヤーが壊れているの?”って言われてもしょうがない感じですから(笑)、今作は普通に音楽に聴こえるものができたと思います(笑)。
Atsuo:今のところヨーロッパで5週間、秋にアメリカで5、6週間を予定していて、日本でもその合間を縫ってやりたいなと考えているところです。具体的には、これからといった感じですね。
Atsuo:日本に比べると、アメリカもヨーロッパもアツいですね。特にアメリカはパーティ好きな人種というか、すごく盛り上がります。ライヴ後に女性のお客さんが“胸にサインして!”って服をはだけてくる。こっちも動揺してサインをまちがえてたりして(笑)。
Atsuo:そうですね。以前、アメリカで取材を受けた時に、同じ話をしたことがあるんです。「アメリカだけだ」って。そうしたら女性のインタビュアーの人が何か気まずそうにしていて…。何でだろうと思ったら、その人も同じことをしたことがあったみたいで、それをなぞって、タトゥーを入れている(笑)。
Atsuo:他のメンバーはわからないんですけど、僕はどこでやりたいっていうのはないですね。現実的にライヴができる場所であれば、どこでも。実際、アジアからオファーをいただくこともあるんですけど、ちょっと特殊な機材を使っているので、なかなか現実的な話になっていかない。それがそろうなら本当にいろんなところに行ってみたいと思っていて。いろんなところに出ていって、また戻ってきたりとか…。日本を出入りして境界線を越えていく中で、“今後、何を成していくか?”っていうのが絞られていく感覚がありますから。国という概念だけでなく、いろんなものの中に入ってみたいし、またそこから出てみたいって思います。世界一わかりにくいバンドだと思うんですけど(笑)、もし気になったら手を伸ばして聴いていただけたらうれしいです。
INTERVIEW:Shinji Takemura
●ALBUM
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