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デビュー15周年を迎えるFPM=田中知之が、12月23日、3年10ヵ月ぶりとなるニュー・アルバム『FPM』をリリース! 大人でおしゃれでかっこいいエレクトロの最先端を体感してほしい。


00年代最後の年にニュー・アルバムがリリースされますが、00年代の音楽シーンを振り返ってみてどんな10年だったと思いますか?

FPM:00年代がどんな時代だったのかがわかるのはもう少し後なのかなって思いながらも、やっぱり個人の時代だったんじゃないかなって。たとえば携帯電話やパソコンの発展だったり、音楽を聴く環境だったり、すべてにおいてすごくパーソナルな方向に向かったのはまちがいないですよね。また、ブログだったりMySpaceだったり、個人がそれぞれのメディア機能を持って、プロモーションしていくようになったじゃないですか。そう考えるとメディアが流行を先導すること自体が難しくなってきているんじゃないかなって思いますね。

個人が象徴される中で、作品をつくっていく難しさはあった?

FPM:CDの売り上げを音楽配信ダウンロードの売り上げが超えたとか、いろいろなところでマーケットの変化みたいなものがあったと思うんです。音楽の買い方にしてもアルバムの中で好きな曲だけ選んで購入したりね。そんな買い方が一般的になってきていると思うんですが、それって音楽本来の楽しみ方をすごくせばめているような気がするんですよ。もしかしたらそれっておじさん的な発言なのかもしれないですけど、だからこそアルバムの完成度を逆に上げたいなって気持ちが制作当初からありましたね。やっぱりアルバムっていうのは映画と一緒で、ひとつのシーンを見ただけでは何も伝わらないと思うんです。アルバムの醍醐味は全体の流れだと思うし、僕は作品としてそれを再提示したいなって気持ちになりましたね。

時代の流れとともに、FPMのエレクトロも進化した?

FPM:どうなんだろうね。エレクトロってダンス・ミュージックの一部だと思うし、パンク・バンドをはじめるような若者がコンピュータを手に入れて、初期衝動のもとにつくり上げた音楽だとも思うし。そういう初期衝動で動かされる若者は、僕たちが見てもまぶしいし、いい意味で影響を受けますよね。僕は昨日/今日で音楽をはじめたわけじゃないですから、当然、今の若者が考えつくような、ルールを無視したような斬新でエキセントリックな音づくりにも興味を持ったけど、今作に関してはさらに僕の好きなアナログの芳醇な音などを欲張って取り入れたいなって。それもレコーディングの途中で思ったんです。もちろん、ダンス・ミュージックって時代と添い寝をするというか、それが宿命でもあって醍醐味でもあるんだけど、そういった進化がないと途端につまらなくなると思うんです。その一方では、何か簡単に消費されてしまうという悲しい宿命もあるんですけどね。でも、僕は単に消費されるだけの音楽をつくるつもりもないし、最先端のものを取り入れた上で、ポップスとしての普遍性みたいなものも同時に手に入れたいなって。欲張りな考えをもって、アルバムないしトラックの制作にのぞんでましたね。

ジャケット・デザインの“耳”に込めた意味は?

FPM:音楽は耳から入るものですからね。何かそういった意味でシンプルかつ強いイメージのジャケット・デザインがほしかったので、ストレートに“耳”にしました。ビートルズの『ザ・ビートルズ』というアルバムを“ホワイト・アルバム”と呼ぶように、このアルバムもFPMの『FPM』ですから“耳”とか“耳ジャケ”の愛称で呼ばれたら面白いですよね。

タイトルには『FPM』とありますが、そもそもFantastic Plastic MachineをFPMに変えた理由は?

FPM:それはYellow Magic OrchestraがYMOになったようなもので、改名というわけではなく愛称で呼んでもらいたいなって。だから、そんなに大きな気持ちの変化はないですね。

今作は全体を通して“大人でおしゃれでかっこいい”印象が強いですよね。

FPM:そうですね。今のダンス・ミュージック=エレクトロって、いい意味でのバカっぽさが全面に出ていると思うんです。でも、それを僕が踏襲するのはちょっとちがうかなって。大人向けのダンス・ミュージックって、“やさしい”イメージがあると思うんですが、決してそんなことはないと思うし、若いダンス・クリエイターがつくった楽曲には負けない強さもあるし。自分は43も歳を重ねた人間ですからね。DJとして少なからず現場を踏んできた部分もあるので、そういった部分では大人なサウンドを追求できたと思います。

1曲目の「If You Do,I Do(威風堂々)」は、“お前がやるなら俺もやる”と言わんばかりのポップでダンサブルなサウンドが特徴的ですが、どんなインスピレーションをもとに制作していったんですか?

FPM:これはUNIQLOのUNIQLO CALENDARという企画がきっかけでつくった曲なんですが、同時にアルバムをつくり出す時にオープニング・ナンバーがほしいなって。それで自分のDJの出囃子にもなって、全世界の老若男女が知っているような大ネタを表現しようと思ってトライしました。

2曲目の新曲「Without You」はライヴでも披露されている楽曲ですが、いつ頃制作されたんですか?

FPM:これはravexでご一緒したMONKEY MAJIKをフィーチャーした作品ですが、何かMONKEYとやりたいなっていうイメージがある中で、突発的にでき上がった曲なんです。この作品に関しては考えてもつくれるようなトラックではなくて、本当に天からの授かり物だと思っていて。本来は70年代のディスコのサンプリングを乗っけながら、それに歌とかリズム・トラックを乗せてつくっていたんですね。そうしたらすごくいい歌メロとリズム・トラックができてしまって、そのサンプリングは必要なくなって抜いちゃったんです。これはもうラッキーみたいな(笑)。それをMONKEYの2人が感じ取ってくれて、非常にいい歌を聴かせてくれましたね。本当に感謝してます。

エレクトロ全開というより、爽やかな感じですよね。

FPM:そうですね。ただ、やっぱり細かいキックの部分であったり、ちょっとしたアレンジは、ソフトなもので包まれているのでわからないと思いますが、フロアでは結構凶暴になると思うんです。そういった意味では、昨今のダンス・ミュージックと比べても決して負けるものじゃないなって。当然、ポップスとして楽しんでもらえるポテンシャルはあると思うんですが、影を潜めた凶暴性みたいなギミックもあるので、そこにも注目してほしいですね。

8曲目の「Sex」はFPMのセンスを感じさせる遊び心満載の楽曲ですね。

FPM:これはヴィジョネアというNYの企画ブックで、世界中のアーティストが1分間の曲をつくるという企画があって、それに僕が参加したんです。それでつくったのが「SEX」という1分間の曲だったんですよね。それを引き延ばしたのが今回収録した楽曲なんですけど、この曲は去年リリースしたアルバム『SymmetryS』の中にも収録されているんです。RAHMENSの小林賢太郎と一緒にやった実験的ユニットのアルバムなんですが、時間が経った今でもまったく色あせることなく、昨今のエレクトロとテイストが似たようなものになっているんです。だから、あえてここでもう1回みたいな気持ちになって。

アレンジはしなかった?

FPM:手を加えようと思ったんですが、その必要はなかったですね。だから、リマスタリングだけです。

12曲目の「Ai No Yume」はUNIQLO CALENDARとのタイアップ楽曲ですが、耳に残るようなゆったりとしたサウンドにしようと思ったきっかけは?

FPM:本編は11曲で終わって、この作品の立ち位置はエンド・ロールですね。テンポ65くらいのゆっくりしたダブに聴こえるんですけど、実は4つ打ちを加えているので130のBPMなんです。ほかの曲も130のBPMですから、ゆったりした曲ではなく、テンポでいえば全曲同じなんですよね。この曲にはそういうトリックも入れています。これもUNIQLO CALENDARから派生した曲なんですが、やはりショパンはクラシックというよりポップスだと思うんですよね。この大ネタ中の大ネタを自分なりに調理させてもらえたのが、本当に痛快というか(笑)。それと、靖晃さん(清水靖晃)のサックスはすごいなぁって、あらためて今回も思いましたね。

1曲目と最後にクラシックをネタにしたのは狙って?

FPM:そうですね。やっぱりクラシックの曲を2曲入れるなら、頭とケツではさもうと思いました。そして間の曲に関しては、段々とディープになっていくようにしようと。これはDJ的な考えに基づくんですけどね。

今作をどのように楽しんでほしい?

FPM:FPMをはじめた時から“都会で生活するためのオリジナル・サウンドトラック”というキャッチフレーズを自分の中で考えていて。その昔は、もう少しゆったりとしたラウンジなダウンテンポなものをつくっていたんですけど、ダウンテンポで超メロウな女の人の声が入るラウンジ・トラックっていうのは、逆に都会の生活から見ると嘘っぽいって思ったんですよね。この世知辛くて生き急いでいる都会のBGMには、このダンス・ミュージックのテンポであるBPM130くらいの音楽が、もしかしたらリアルにフィットするんじゃないかなって。決して安らぎを与えてくれる音楽ではないんですけど、日々の生活のリズムをうまく上げてくれるというか、気分を上げてくれると思うんです。だから、聴き方は本当に自由ですよね。つくった者としては、これ以上申し上げることはないって感じです。

00年代最後の作品ということで、この作品をリリースするにあたっての特別な感情はありますか?

FPM:‘10年に差しかかるところで、一応、自分のアルバムが出せましたからね。‘10年代は自由に自分の好きなことができるっていう期待はあります。本当に自分がずっとつくりたいと思っていたアルバムが、もしかしたらはじめてつくれたのかなっていう位の気持ちですから。これで終わりじゃなくて、むしろスタートを切るような気持ちですよね。僕って音楽に興味がなくなったら、音楽もDJもやらなくていいと思っているんです。でも、今ってDJをやるのもスタジオにいるのも楽しくて仕方がないんです。こんな気持ちになれたのは、FPMとして音楽をつくりはじめた時以来だったので、そういう意味ではいい状況でアルバムをリリースできたと思いますね。来年で15周年を迎えるんですが、そのギリギリで出せたのは、来年になってすごく背中を押してくれると思います。

‘10年の抱負を聞かせてください。

FPM:来年は15周年なので、何か面白い企画をやりたいなって思いつつも、現在のスタイルにこだわらず、全然ちがうフィールドとのコラボレーションみたいなこともできたらいいなって。それがハウスなのかテクノなのか、それともヒップホップなのかはわかりませんが、タガが外れた状態でやってもいいのかなって思いますね。純粋に自分が面白いと思えるものに出会って、そこにいろいろなエネルギーを注げることは、すごく幸せなことですよね。クリエイターはそれがなくなったら終わりだと思うし、来年もそういう気持ちになれるものにいっぱい出会いたいと思います。

INTERVIEW:Hiroyasu Wakana

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●ALBUM
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『FPM』
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